近年、インスペクションという聞きなれない言葉を、中古マンションの売買で耳にするようになりました
住宅の購入は人生でとても大きな買い物です
マイホームを買うときは買い換えるとき住宅の性能や安全性を確認し安心で安全な物件を購入したいものです
宅建業の法改正でインスペクションの制度がストック住宅を活用するため法令化されました
1 インスペクション(建物状況調査)とは?
インスペクションとは英語の「精査」「検査」「点検」の意味を持つ「inspection」からきています
日本は今まで不動産市場では新築物件が人気だったため、欧米のように中古物件が日常的に売買されることがありませんでした
海外では古い建物が高く評価されており中古住宅のインスペクションの需要が古くからありました
現在日本の都心部の新築物件の限界地方の空き家の増加が問題となり、また、全国的に中古住宅の売買件数も増えてきています
都心で立地条件の良い安価な中古物件への需要が高まり、地域活性化のため魅力的な地方の物件を提供する必要も出てきました
中古物件の売買の活性化のため2018年にインスペクションの制度が導入されました
ホームインスペクション(住宅診断)とは、売買契約時に、中古物件の維持管理や経年劣化(築年数がたった為に古くなること)を専門家が正確に判断し、物件の現状を消費者にわかりやすく伝えることです
インスペクションは売主にとっても買主にとっても今後の住宅販売にますます必要になってきます
今回の法改正で変わったこと、インスペクションの業者、調査内容、必要書類、費用や期間、メリットや注意点についてご説明しましょう
2 法改正で「既存住宅状況調査技術者」が国家資格に
2018年(平成30年)4月1日の宅地建物取引業法の法改正で、住宅診断の資格が「既存住宅状況調査技術者」の国家資格となりました
国土交通省は「既存住宅インスペクション・ガイドライン」を公表し、検査の方法と項目を定めました
今まで民間だったインスペクション業者のインスペクター資格が国家資格となることで、より信頼性のある住宅検査が行われることになりました
宅建業法では、インスペクションのことを「建物状況調査」と言い、建物状況調査は、国交相が定めた一定の講習を終了した建築士(一級、二級、土木)が行うことが義務付けられました
また、宅地建物取引業者は、売主や買主に「建物状況調査(インスペクション)」について説明し、希望があればインスペクションの業者を斡旋することが義務付けられました
今まではインスペクションに関して説明義務がなかったため、宅建業者は顧客に対してインスペクションの話をすることなく取引が行われてきました
また、建築士や特別な資格を有さない者によりインスペクションが行われることもありました
今回の改正で専門家による建物状況調査が行われることで、売主と買主が安心して中古マンションの取引ができるようになりました
3 インスペクション業者とは?
インスペクション業者とは専門的な知識と機材を持ち、マイホームの売買に際して物件の瑕疵を調査する会社です
そして買手が安心して安全な物件を買えるように、売手がのちのち瑕疵担保責任で損害賠償や解約のリスクを負わなくてもよいようにサポートしてくれます
2018年から中古住宅取引の際、宅建業者からの建物状況調査の説明が義務化されたためインスペクション業者が急増しました
このため、ネットのサイトで消費者が自分にあった業者を選べるよう、第3者機関の「インスペクションの窓口」などができました
多くの業者の中から個々の取引物件の調査に詳しい物件近くのインスペクション業者を紹介するサービスです
一括紹介サイトでは第三者として公正な立場で国家資格を持つ検査員を派遣し、物件を正確に調査し消費者に丁寧に分かりやすく説明できるインスペクション業者を斡旋することを目的としています
物件の種類、所在地などの物件情報と検査希望日を入力すると、複数のインスペクション業者の検査員と見積もりが提供されます
検査のサービスや見積額を比較して検査を依頼することができます
国土交通省に登録のある「既存住宅状況調査技術者講習」を終了した建築士を派遣してくれます
検査の種類には、「建物診断」「建物状況調査」「耐震診断」「既存住宅売買瑕疵保険」「フラット35適合検査」などがあります
インスペクションの範囲・調査内容
それでは、実際にインスペクションで、住宅のどのような範囲が、どのような基準で調査されるのでしょうか
[構造部分の検査範囲]
検査範囲は、建物の構造から、耐力上主要な部分と、雨水の侵入を防止する部分に別れます。
構造耐力上主要な部分:基礎、土台、床組、床、柱、屋根材を支える梁(はり)
雨水の侵入を防止する部分:外壁、軒裏、バルコニー、内壁、天井、小屋組、屋根
建物の各部分に関して劣化がないかを、「既存住宅状況調査技術者」の資格のある建築士が、国が定めた「既存住宅状況調査方法基準」に従い、目視や検査道具で調査します。
検査道具には、水平・垂直を測るオートレーザー、スケール、鉄筋探知機が使われ、各部分ごとに、劣化事象が「有」「無」「調査できなかった」のいずれかが記載され、報告書が作成されます
[検査内容]
それでは、具体的にどのような点が検査されるのでしょうか。
- 外壁、屋根、バルコニーに、ひび割れ、はがれ、欠損、水染みがないか
- 鉄筋・鉄骨の露出はないか
- 内壁、床に、はらみ(膨らみ)、はげ落ち、きしみ、カビがないか
- 柱に、ひび割れ、傾き、劣化がないか
- 天井に、はがれ、雨漏りがないか
- 開口部の建具の開閉に問題はないか
- キッチン、バスなどの設備の排水・防水の欠陥、カビはないか
- 各種設備(給排水管、給湯器、換気扇、ダクト)に欠陥はないか
- 床下の床組の基礎や地盤面に問題はないか
- 天井裏に、腐食、シロアリ被害はないか
上記のような項目が調査され、検査基準では、ひび割れは幅0.5mm以上、深さ20mm以上、傾斜6/1000以上などの規定があり、問題がある場合は、部分ごとに「劣化事象有り」にチェックが入れられます
[中古マンションの場合]
また、中古マンションでは、住居の「共用部分」と「専有部分」に分けて調査が行われ、物件管理状態も審査されます。
- 構造部のアリ害、腐朽・腐食、配筋調査、コンクリートの圧縮強度、
- 外壁の「白華現象」(コンクリートの亀裂から雨水が染み込み、石灰成分が溶け出す現象で、亀裂が深いと鉄骨が腐食している場合がある)
- 共有部分の階段の勾配(こうばい)不良、欠陥、手すりの腐食
- 共有廊下の床面の浮き、ひび割れ
- エントランスやゴミステーションの状況
- 窓ガラスの破損、サッシの水切り、シーリング材の亀裂・破断
- 配管、配線の貫通部の異常、水漏れ
- 排水管の正しい水勾配(こうばい不足で排水管の水が逆流しないか)
- 窓や扉の防犯性、外部からの侵入ルート
- 物件の管理、建物の構造、仕様、築年数
- 修繕履歴、修繕計画、管理費、積立金の残高
- 周辺環境、騒音、異臭、地域の治安・防災
インスペクターは、全ての項目を調査し「建物状況調査の結果の概要」と「既存住宅状況調査報告書」を作成し、依頼者に提出します
宅建業者は、過去一年以内にインスペクションが実施された物件の場合は、買主にその結果を報告する義務を負います。また、報告結果で物件に劣化がある場合は、修繕費の概算によるアドバイスを行います
4 インスペクションの依頼時に提出する必要書類
中古マンションの場合、破壊をともなう検査ができないため、建物の構造や耐震性は、記録やデータから判断することになります。そのため、マンションの建築時の下記の資料を、管理組合・管理会社から入手する必要があります。
- 現地案内図
- 設計図書:建物の配置図、平面図、立面図、断面図、矩形図(くけいず)※、設備表、仕上げ表
- 建築確認申請書・検査済証
- 地盤調査報告
- 管理規約
- 長期修繕計画
- 分譲時パンフレット
- 販売チラシ
※矩形図とは建物の詳細な断面図
5 インスペクションの費用と期間
費用は、ホームインスペクションの基本コースで、一般に、5〜8万円程で「建物状況調査結果」と「簡易報告書」が発行されます
仲介業に相談しても良いですしインスペクション業者の斡旋窓口サイトで一括見積もりをとり、調査業者を比較するのも良いと思います
瑕疵保険の適合検査には築年数が古い物件の場合はコンクリート圧縮強度試験(約2万円)屋上共有部点検等の別途費用が必要になる場合があり、問い合わせが必要です
検査の種類に「建物診断」「建物状況調査」「耐震診断」「フラット35適合検査」などがあり仲介業者に、どの調査を受けるか、「既存住宅売買瑕疵(かし)保険」を利用できないかなどを相談しましょう
検査時間は2〜3時間かかり、調査結果はその場でわかりますが、報告書の発行には数日から1週間ほどかかります
6 インスペクションのメリット
中古マンションのホームインスペクション(住宅診断)は、専有部分だけでなく、マンションの共有部分や、建物の構造、地盤調査、管理状態、周辺環境まで総合的に調べ、その物件の価値を客観的に正確に評価するもので、売主、買主の双方にメリットがあります
[買主のメリット]
- 買うか買わないかの判断の基準となる
- インスペクション済みの物件として安心して購入できる
- 購入後の維持管理費用の予測が立てられる
- 瑕疵(欠陥)があれば、売主に修繕・値引きなどを求めることができる
- 購入後に瑕疵が見つかれば、補修が保証される
[売主のメリット]
- インスペクション済みの物件として安全をアピールできる
- 瑕疵について、売却後の買主とのトラブルを防ぐことができる
- リフォーム、リノベーションをする場合は、必要箇所と費用が分かる
また、「既存住宅売買瑕疵保険」加入や「耐震基準適合証明書」の取得で、住宅ローンの控除や補助金申請のできる場合があります。
7 ホームインスペクションのタイミング
住宅診断は、一般にどのようなタイミングで利用されるのでしょうか。「媒介契約締結時」「重要事項説明時」「売買契約締結時」での確認内容をご説明しましょう
[媒介契約締結時]
売買の仲介業者は、ホームインスペクターを斡旋について媒介契約書に記載することが義務付けられました
このため、売主は、販売依頼時に、宅建業者にホームインスペクションについて相談をすることができます
[重要事項説明時]
物件が過去1年以内にインスペクションを受けている場合は、宅建業者は「重要事項説明」で買主に説明することが義務付けられました
このため買主は住宅診断で建物に欠陥が見つかれば、「既存住宅売買瑕疵(かし)保険」の加入を検討することができます
[売買契約締結時]
売主も買主も「建物状況調査結果の概要」と「既存住宅状況調査報告書」の書面を確認して売買するため、物件引き渡し後に建物の瑕疵をめぐってトラブルになることを避けることができます
買主は買いたい中古物件があれば、仲介業者に「ホームインスペクション」をしてから決めたいと意思表示できます
近年は「インスペクション済み売り物件」も増えてきているので、物件選びの確認項目にしましょう
「既存住宅売買瑕疵(かし)保険」の加入率は、インスペクションに関する宅建業法の改正による中古マンション流通規模の拡大で上がっています
保険を利用して、安心・安全な中古マンションの購入を考えましょう
8 インスペクション業者の見極め
インスペクターの中にも得意分野があります。その調査員が、木造戸建てに詳しいのか分譲マンションに詳しいのかで調査の結果も異なってきます
また、土木に詳しいのか構造に詳しいのか今までどんな分野での経験が豊富なのかを、事前打ち合わせの段階で判断できるだけの知識を持ってインスペクション会社との交渉にのぞみましょう
担当者も人ですので実績と経験を確認して信頼関係を作り、検査の中でよくわからないところは何でも聞けるような人間関係を最初に作ることが大切です
専門用語を多用せず一般の人にわかりやすく説明してくれるか、質問に真摯に答えてくれるかが業者見極めのポイントです
値段が安いからの理由でインスペクションをお願いしても、正しい検査をしてもらえなかった例もあります
床下や屋根裏まで検査をしてもらえなかった明らかに手抜きの調査で終わってしまった、などというようなことがないように注意しましょう
基本の表面的な検査しかしない会社では、費用を出してホームインスペクションする意味がありません
業者の中にはリフォーム会社とつながって、調査の依頼後に多数のリフォーム会社から電話がかかってきたり、しなくてもよい床下の工事やシロアリ対策を勧められたりしたという事例も過去にあります
インスペクションの範囲・調査内容や提出書類・法改正などの会話をしながら、信頼のおけるインスペクション会社を選んでください
まとめ
2018年4月1日の宅建業法の改正で住宅診断の資格が国家資格となり、宅建業者に、ホームインスペクションの説明が義務づけられました
中古マンションも、国の決めた基準に従って総合的に検査されるため、売主と買主は相互にメリットを受けることができます
信頼のおけるインスペクション業者に住宅診断を依頼することで、都心や地方より有利な物件購入ができるようになりました